鐘の音

古典の日絵巻[第七巻:きものがたり]

古典の日絵巻第七巻 きものがたり

撮影©中田昭

第三号 平成30年6月1日

鐘の音
服飾評論家 市田 ひろみ

仕事柄 旅が多い。新幹線で上京する時は、必ず CかDの席をとる。
進行方向 左側に 富士山が見えるかどうかだ。
夏は、ほとんど絶望的だけど 冬の寒い日、そして晴れている日は、希望が持てる。
その日も 早朝ののぞみで 東京へむかった。
今日は、もしかして 富士山が見えるかも。
名古屋を出て、静岡にむかう頃から 富士山が気になる。
大正解。青い空に 雪をかぶった富士山。絶景だ。
乗客の何人かは、カメラをむけていたが、知らずに寝ている人もいる。
寝ている人 みな おこして この美しい富士山を見せてあげたいと思っていたら、突然 車内放送。
「お知らせいたします。只今、進行方向 左側に美しい富士山が見えます。…」
よかった。しかし こんな美しい 富士山も久しぶりだ。良いことありそう。
親切な 車掌さんの配慮で ほとんどの乗客が 美しい 山の姿を見た。
その時、車掌さんが通路を通ったので、「今の放送良かったわ 」と言ったら「いやー、そう言って頂くと ほっとします。私は 東海道 ひとすじ やって来ましたが 今日のような 美しい富士山は久しぶりです。でも 叱られることもありますので。」
? ?
「寝てるのに うるさい。放送するな!!」
なる程 なる程。車掌さんも いろいろ苦労してるのだ。
京都は お寺が多い。寺の鐘を 朝夕、聞けるところもあるが 聞けない寺もある。
我が家の近くにある寺は 朝 五時に 鐘がなる。名鐘らしくて 静かに 身体にしみこむような鐘だ。
除夜の鐘は絶品だ。京都の底冷えの 痛いつめたさの中で 波調をととのえて ひびく鐘の音は心にしみる。
「御近所が うるさい いわはりますさかい うちは 朝の鐘 やめました」と聞いたことがあるが。
そんな少数派のクレーム 気にせんと 鐘の音を聞かせて ほしい。京の鐘の音は 静かな もてなしでは ないだろうか。

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次号は平成30年7月に掲載します。

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