巨木の生命

古典の日絵巻[第七巻:きものがたり]

古典の日絵巻第七巻 きものがたり

御所 巨木の生命

第九号 平成30年12月1日

巨木の生命
服飾評論家 市田 ひろみ

やっぱり 気象庁の予報通り 台風二十一号は きびしい風雨をつれて来た。
九月四日のイベントも中止になり 京都の 重要な 自然を 破壊した。
清水寺、京都御苑、平野神社、北野神社など 庭や 街路樹をなぎ倒した。
我家は、京都御苑 梨ノ木神社の 森の中にあるので、 折れた枝や 葉が、ビシ ビシとガラス戸を 打った。
「割れたらどうしよう。」
昼だったので 窓外の出来事は 映画のように 映像と音響が同時進行だ。
私は 最初から一本の巨木を見つめている。それは 二十年もの 欅の木だ。
すでに風雪に耐えて ななめに ゆがんでいる。
京都御苑(御所)には、何千本もの木 がある。
欅・楠・桂など いずれも 何百年も 生きて来た 巨木で 私に 四季を知らせてくれる。
すでにかたむいていて いつ 倒れても 不思議ではない。でも 台風が 来る度に その欅は、風に耐えぬいて来た。
不思議と 台風を よけて来た 京都も 今度は だめだ。
北野天満宮、醍醐寺、清水寺 国宝以外にも 次々とニュースが入る。
御苑の中の どこかで 倒木の 折れる音がする。御苑も二百本近く倒れたという。
ああ、この欅も もう、今にも倒れそうだ。
何年 生きたのだろうか。
風雪に耐えて きびしい 自然を生きぬいて来た。
しかし 午後 三時 地響が 部屋を ゆすったかと思うと どうっと 西向きに 倒れた。 
あゝ 大きな 根っこを のこして 見事に生きた。大きな根っこは 生きたあかしだ。
私は台風のたびに 第二室戸台風を思い出す。
昭和三十六年九月 高知県 室戸岬から近畿をおそった 大きな台風だった。
その日のいつもの朝食。急に 表の玄関のガラス戸の水位があがって
家族四人は 逃げようとしたが ガラス戸があかない。父は、足で蹴って 戸を破った。
父の右足首に その時の傷がのこっていた。
第二室戸台風の 父母の記憶は そのまま 私の記憶となった。

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次号は平成31年1月に掲載します。

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