古典の日

古典の日ホーム > 古典の日絵巻第五巻 日々のなかの古典

古典の日絵巻第五巻 日々のなかの古典

古典の日絵巻第五巻 日々のなかの古典

(上)御簾の奥に袿(うちき)姿の女三の宮が見える
(下)柏木は階の右側にいて、女三の宮のほうを見ている

 

写真提供:風俗博物館

第十一号 平成29年2月1日

平安貴族と猫

 最近は“猫ブーム”だそうだ。平安時代、貴族生活の絶頂期で、宮廷文化が花開いた頃に在位していた一条天皇(980~1011)もたいへん猫が好きだった。それも周りの人々があきれるほどの猫好きで、子猫が生まれると大臣たちを集めて(うぶ)養いの儀式を行い、お守り役として乳母までつけたという。(『小右記』、『枕草子』)
 紫式部はその一条天皇中宮彰子に仕えていたから、この有様を知っていたであろう。源氏物語の「若菜上」には、桜の花が雪のように散る<六条の院>の庭で蹴鞠が行われていた時、幼い唐猫が大きな猫に追われ、つながれていた綱を引っ張ったはずみに寝殿の御簾を引き上げてしまうという場面が有る。そしてその瞬間に御簾の中の女三の宮(光源氏の正妻)の姿が柏木(衛門督(えもんのかみ))の目に入り、柏木はたちまち恋におちる。「若菜下」では、柏木がその子猫を手に入れて可愛がる様子が描かれ、やがて物語は柏木と女三の宮の密会という重大な局面に発展するのである。源氏物語54帖の中の白眉ともいわれるこの「若菜上・下」で、猫は重要な役割を果たしている。
 『更科(さらしな)日記』にも、主人公(菅原孝標(すがわらのたかすえ)(むすめ))が部屋に入ってきた迷い猫をそのまま自邸で飼い続ける、という部分がある。この頃の貴族たちの間でも、猫はペットとして大変人気があったようだ。(菅原孝標の邸は、現在の烏丸通と御池通の交差点東北一帯にあって、「都のうちとも見えぬ」ほど樹木が茂っていると日記に見える)
 猫はかわいらしくて愛すべき動物だが、何となく不気味なところがある。「猫はひとりで爪を隠してこっそり忍び寄ったり、物陰に隠れて待ち伏せしたりする。それを陰険と思われても仕方がない。これはその狩猟法に由来する猫の宿命である」と、『猫の歴史と奇話』に平岩米吉氏が書いている。

NPO法人京都観光文化を考える会・都草
特別顧問 坂本 孝志
次  号
次号は平成29年3月に掲載します。
バックナンバー
古典の日絵巻〔第五巻:日々のなかの古典〕はこちら
古典の日絵巻〔第四巻:琳派400年〕はこちら
古典の日絵巻〔第三巻:新たなステージへ〕はこちら
古典の日絵巻〔制定記念臨時増刊号〕はこちら
古典の日絵巻〔第ニ巻:制定をめざして〕はこちら
古典の日絵巻〔第一巻:奥の細道〕はこちら