琳派400年記念「国際シンポジウム」を開催いたしました。

あいにくの小雨模様となった11月2日(月)、当委員会が主催する秋の大琳派祭のメインイベント「国際シンポジウム」を国立京都国際会館で開催しました。

〇オリジナル雅楽演奏 東儀秀樹(雅楽師)
1. 琳派にイメージを受けて…即興演奏
2. 越天楽幻想曲      日本古謡       編曲:東儀秀樹
3. ハナミズキ       作曲:マシコタツロウ 編曲:東儀秀樹
4. 誰も寝てはならぬ    作曲:プッチーニ   編曲:東儀秀樹

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会場の灯りが落ちるとともに映し出された「燕子花図屏風」にイメージを受けて、雅楽師・東儀秀樹さんの即興演奏に始まり、その後、平安の昔から伝わる「越天楽幻想曲」からプッチーニの「トゥーランドット」まで、あっと言う間に歴史と世界を一周。さて、東儀さんが琳派の中で一番好きな作品は何だと思われますか?それは、俵屋宗達が平安時代の舞楽の世界を描いた「舞楽図屏風」です。古く平安時代から制作されていた舞楽の図像集等を参考にしながら、その世界が写実に描かれてきたおかげで今日まで受け継がれてきた舞楽を確証し、これからの舞楽を考えることにつながります。琳派は世界で高い評価を得て、西洋の芸術に刺激を与えてきたことを考えた時、日本の古典楽器はクラシックオペラやJ-popの楽曲を演奏できる可能性を持つのかどうか。東儀さんの演奏は、そんな思いを払拭するかのように日本の美学が国境を越えて互いに影響しあい、音楽の楽しさをわかちあうことを実証するすばらしいものでした。古今東西で演奏されている楽曲は、東儀さんの編曲で古典楽器が奏でる美しい音色となりました。

〇挨拶 琳派400年記念祭 呼びかけ人代表 芳賀 徹
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さて、琳派というと真っ先にどの作品を思い浮かべられますか?「風神雷神図屏風」そんな声が聴こえてきそうです。西の方からやってきた風神は邪悪なものを祓い、東の方からは雷神が雨を降らせて清浄化する。東西両側から馳せ撚った偉大なる神が屏風から飛び出し、今にも猛烈なる風雨を噴き出さんばかりの勢いです。反してモーツァルトの流麗な音楽が聴こえてきそうな全長13,56mに描かれた鶴の舞いと書のコラボレーション「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。こうした日本の美術史上最高の豊かな芸術の流れを持つ琳派は、海外や国内の芸術家達にどのように影響を及ぼしてきたのでしょうか。美術だけでなくデザインの世界にまで繋がりをみせた琳派の系譜をさまざまな視点からお話していただきましょう。気楽に楽しんでお聞きください。

〇連続講演〜
「ジャポニズムと琳派の魅力〜Rimpa in the West」
ジョン・カーペンター(メトロポリタン美術館日本美術キュレーター)
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欧米人はなぜこれほどまでに琳派に魅了されたのか?尾形光琳が描いたメトロポリタン美術館所蔵の「八橋図」を見てみましょう。この屏風には、たらし込みの技法を使ってシンプルに描かれた八橋とリズミカルに配置された燕子花しか描かれていません。しかし、この絵に向き合ううちに文学的な要素が隠されていることに気づかされます。『伊勢物語』第九段「東下り」のあのシーンです。
ら衣 つつなれにし ましあれば るばるきぬる をしぞ思ふ」
人物を描かずに、見るものにその情景を思い起こさせる“留守模様”という手法です。大胆にグラフィックに描かれた絵、欧米では考えられない構図です。それでいて、この絵からはまるで香りまでもが漂い、その情景を思い浮かべることができることに衝撃を受けたのです。
さらに琳派の作品には、宗達の下絵に光悦が和歌等を散らし書きしたものが多く残されています。絵とコラボレーションするかのようなすばらしい筆の動き、エネルギー、空間の広がりと時間の推移までを感じさせるその筆使いに、西洋人は心を強く捉えられ熱狂的な琳派ファンとなったのです。

「RIMPAの里帰り〜浅井忠、神坂雪佳とモダンデザイン」
クリストフ・マルケ(日仏会館・フランス日本研究センター所長)
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琳派というと江戸時代に活躍した大物の絵師を思い浮かべる方がほとんどかもしれません。そこで21世紀初頭に工芸の世界で新しい試みをおこない琳派を新しい形で生まれ変わらせた浅井忠と神坂雪佳に注目してみましょう。洋画家出身の浅井、日本画家出身の神坂は、ほぼ同時期にヨーロッパに渡り、当時のジャポニズムの流行で日本の装飾芸術が高く評価されていることを認識します。その評価の基となったのは当時、西洋でも手に入れることができた「光琳百図」等の印刷図版です。帰国後、二人はさらに琳派に傾倒し、モチーフを単純化しモダンに表現した絵を工芸デザインに取り入れ、工芸職人とコラボレーション制作するなど、また若手図案家や工芸家の育成も行い、生活芸術の革新を進めていきます。それらの作品には、優美さと琳派の特徴であるユーモアのセンスがデザインに活かされていました。生活芸術の復権をめざした光悦村の精神を継承することに繋がる二人の活動と紙印刷つまり複製技術によって世界の人気を集めということは実に注目すべきところです。

「フランス工芸家から見た琳派の美」
マニュエラ ポール・キャバリエ(工芸作家)
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金箔造形作家であるキャバリエさんは、顔料や金箔を用いた抽象作品を制作し、エルメス、イブ・サンローラン、ルイ・ヴィトンなどのコラボレーションを多く手掛けています。10月に橋本関雪記念館で開催された「影と光〜感情の響き」の展覧会では和紙と木、インクと金の背景に洗練されたジェスチャーを表現テーマとした作品を出品。琳派の作品の中にも多く見られる金。作品にどのように金を取り入れたのか、その制作意図を作品画像とともにお話いただきました。

「コシノジュンコの琳派の世界」
コシノジュンコ(ファッションデザイナー)
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10月9日、京都国立博物館「琳派 京を彩る」展開幕の前日に開催されたファッションショー。それは「琳派と能」をテーマに、琳派と能とファッションとの新しい出会いに始まりました。能の世界700年の上に琳派400年という長い歴史が出会い、現代にまで影響し続けるその根底には“面白い”という考えがあります。光琳が尊敬する世阿弥の『風姿花伝』にある「秘すれば花」。“花”とは、観客を面白がらせ、魅了することを意味しています。能だけにかぎらず「面白くなければ琳派じゃない」「琳派はおもしろくなきゃ」。この考えがコシノさんにお能の幽玄なる美意識を基底とした琳派ファッションを誕生させました。他からの影響を受けたものではなく、日本独自に生まれた文化は世界に通じるものとなることを具体的に表現したコシノジュンコさんの琳派と能とファッションの世界を映像とともに堪能していただきました。

〇パネルトーク  「世界がたたえる琳派の美」
パネリスト    山下裕二(明治学院大学教授、美術評論家)
         芳賀 徹(静岡県立美術館館長)
コーディネイター 河野元昭(京都美術工芸大学学長)

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戦後の琳派の継承はどうなってきているのか?日本画の世界ではなくデザインの世界にこそ20世紀の、昭和の琳派の存在があるとの興味深い話に始まったパネルトーク。山下先生はその存在に田中一光を挙げられました。一光は、琳派がつくり出した表現の中で、特に曲線とそのリズムを引用し、それをより抽象的な形に表現し作品にしてきました。一光にとって琳派というものは一種麻薬のような危険な存在でした。琳派のエッセンスを継承し、自分自身の一部とした作品としてきた一光をまさに「20世紀琳派」であると考えておられます。一光が亡くなったこれから、現代の作家が琳派からインスパイアされ、その精神を引き継いでいくことに大きな意味があると考え、山下先生ご自身が監修し2015年から開催したポスター展を今後も展開していくことを語られました。

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西洋人がいかに光琳にいかれていたか。「コーリンよ!私はこの名前が大好きなんだ!」“コーリン”という言葉を聞くだけでくらくらするような感覚を呼び起こす。19世紀後半に西洋で出版された『藝術の国日本』という日本美術研究雑誌には「光琳」が取り上げられるほどの熱狂ぶりでした。しかしパリを中心とした日本研究者達は、琳派の受け取り方を限定しすぎたようです。なぜなら琳派は光琳から始まるのではなく、光悦や宗達がいて光琳や抱一がいるからです。我々日本人は、光悦の偉大で寛大さが顕れ出た茶碗や万葉以来の日本人の心“もののあはれ”を描く宗達の墨絵を見て、作品への奥行きの深さを感じ取り、人間と自然が生で触れ合う世界を捉えて表現する光悦や宗達こそが琳派の源流であることを理解しています。これは西洋人には達せなかったものでしょう。もう一度、私達日本人が感知する魂の広さ、深さを琳派400年を記念して我々の中に甦らせたいとの思いを熱く語っていただきました。

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さまざまな観点から発表していただいたシンポジウム。琳派という大きな統一感を持ちながらそれぞれに個性があるということに深く感銘を受けました。ご講演いただきました先生方、そしてお足下が悪い中ご参加いただきました皆さまに感謝し閉会とさせていただきました。

琳派400年記念の年ということで、各地で琳派に関する展覧会や講演会が盛んに執り行われ、これからもまだまだ続いていきます。このシンポジウムにはたくさんの方からご応募をいただき、感謝申し上げますとともに、残念ながら選に漏れた皆さまに深くお詫び申し上げます。
この1日がご参加いただきました皆さまにとりまして、生涯の宝となる1日となりましたことを願っております。

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